2009年8月19日水曜日

”人間合格”

一昨日から昨日にかけて、以前DVDに録画していた”人間合格”という芝居を観ました。いつもは、TVで観るのですが、今回はギャラリーに置いてあるPCで、夜一人で観てみました。

僕が持っている芝居関係のDVDは、ほとんどがBSデジタルやWOWOWから録画したものです。仙台に来てからは、マンションの電波状況が悪いので、BSは見ないようになってしまいました。

週に一度はNHK‐BSで深夜に芝居関係の番組があり、WOWOWもかなりの頻度で劇場中継をしていましたので、平均すると毎週1.5本程度はテレビで芝居を観ていたことになります。実際に生でも週一ペースで観に行っていたので、毎週2~4本観ていたことになりますね。ほんと、よく観ていたものです。

さて、”人間合格”という芝居は、脚本が井上ひさしさんです。井上さんは、人物の評伝物を多く書いています。もう気がついた方もおられると思いますが、この芝居は太宰治を描いたものです。

井上さんは、どんな芝居を書くときも、その頃の時代背景や描こうとする人物を綿密に調べます。1作品を書き上げる為の資料たるや膨大な量になり、一冊一冊に貼られた付箋の数は数え切れないほどです。

山形県川西町農村環境改善センター内の「遅筆堂文庫」には、13万冊を超える井上さんの資料が寄贈され、実物を眼にすることが出来ます。これらを見ると、自ら遅筆堂とペンネームを持つ理由がよく分ります。

”人間合格”はこれまでに5回上演されています。僕が持っているのは、2003年に上演された4回目のものです。いつも観て感じることは、井上さんは、太宰の生き方や考え方をその抒情性の内に理解し、鎮魂の念を込めて描いていることです。

このことは、エピローグですまけい演ずる屋台のおやじが語る独白に表れています。そして、背景に使われている原稿用紙に書かれた”人間失格”の文字が、切り貼りされた紙により”人間合格”となっていることで、その思いが伝わってくるのです。

また、井上さんは一人の人物に焦点を当てることで、その時々の時代や風潮も描いています。この芝居でも戦時下での軍国主義が、8月15日を境にして民主主義に一変してしまった人々の心の内や態度、中途半端な左翼運動を行いながら、文という形で常に自身の弱さをさらけ出してきた太宰を描くことで、人間本来が持っている弱さや業と言ったもの、そして人として決して忘れ去ってはいけないものを表現しているように感じます。


前にも書きましたが、今年は太宰治の生誕100年に当たる年です。メディアでも良く取り上げられていますね。

僕は、太宰の生き方に賛同しているわけではありません。でも、津軽の地主の息子であった津島修二という一人の人間が、いつも”これでいいのか”と自身をも疑い、考えながら、人間の起こすきらめく”宝石”のような物語を太宰治の名で作り上げてきたことは事実です。

これはこの芝居でのモチーフでもあり、共感できる点ではあります。

そんな真摯でありながら、とても人間臭い太宰治に人々は魅力を感じるのかも知れません。

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