2009年11月11日水曜日

久しぶりに戯曲を読んで

休廊日でもある月曜日に、久しぶりに戯曲を読みました。このところ、夜にDVDでちょくちょく芝居を見てはいたのですが、繰り返し見ているものでもあり、新鮮さという意味ではちょっと刺激が少ないなと思っていました。(繰り返し見ることで新しい発見はあるのですが)

そんな中、2週間ほど前に購入していた、以前紹介したこともある「せりふの時代」秋号をようやく読んでみました。個人で仕事を行っている人は分かると思いますが、こういう仕事はなかなか公私の区別がつきづらく、落ち着いて本なんかを読むことが以前より少なくなってしまいます。先日は、あえてオフと言い聞かせながら、読み始めたら、これが予想以上に面白くて、2本続けて読んでしまいました。

鄭義信「バケレッタ!」、マキノノゾミ「晩秋」の2本です。

両方ともごく最近舞台で上演されたもので、「晩秋」は現在明治座で行われています。
鄭義信さんは「焼肉ドラゴン」の作家でもあり、とても好きな作家の一人です。一方、マキノゾゾミさんと言えば、自身の劇団であるMOPが以前より好きだったので、劇団公演は良く観に行っていました。しかし、外部公演では割と大きなものを扱っていたりして、その形態も以前からある芝居のそれを踏襲するようなものだったので、なかなか観ようとは思いませんでした。(「晩秋」も明治座ですから)

「バケレッタ!」は、長年小さな劇団を支えてきた座長の葬式から物語が始まります。かと言って、暗いだけの話ではありません。死期を意識した座長の再演や劇団にかける思いなんかが、本当にさりげない言葉に感じられ、それを取り巻く劇団員それぞれの悲喜こもごもも面白可笑しく、そして少しだけ哀しげに描かれています。とてもベタで、なにか、アングラの香りさえ感じられます。劇団「黒テント」を経て、87年に「新宿梁山泊」を旗揚げした鄭さんらしいような作品に思えます。

後で分かったのですが、この戯曲は在日韓国人を自ら公表し(当時の芸能界では公表することがタブーでもあった)、若くして亡くなった女優の金久美子さんへのオマージュでもあるそうです。

一方、「晩秋」ですが、これがとても素晴らしいんです。何が素晴らしいのかと言うと、状況がはっきり頭の中に浮かぶこと、いたずらに修飾されたセリフが無くすんなりと入ってくることです。それでいて、その一言一言にはきちんとした意味があり、決して押しつけがましくない優しさを感じます。奇をてらっていない正攻法の「お芝居」(悪い意味ではなく、素直に)を見せつけられた思いです。

明治座の公式HPによると、坂東三津五郎、八千草薫、森光子とそうそうたるメンバーが名を連ねています。いかにもといった、うがった思いなしで観られると、相当に楽しめる芝居だと思います。主演の坂東さんは歌舞伎役者でありながら、セリフ回しでそんな風に感じることが少ないので、違和感なく芝居に入り込めるのではないでしょうか。

いずれも上演すると、2時間30分程度ですが、読んでいるとそれほど長くは感じられません。実際、両方を2時間程度で読んでしまいましたから。

毛色の全く違った作品でしたが、生と死といった人間の織りなすドラマはやはり普遍的なもので、時代や環境が変わっても、変わらずに受け入れられるものがそこにはあるのかな、と改めて感じさせられました。

0 件のコメント:

コメントを投稿