2010年3月18日木曜日

「移りゆく時間」

展示作業が佳境を迎えています。


一昨日から行っている展示作業が、今夜には終わる見込みです。本当は昨日にはおおまかには終了するだろうと目論んでいたのですが、展示金具が足りないことに気づき、急きょ取り寄せることになりました。手に入るのが今日午後ですので、それから位置取りだけ済ませた壁に打ち付け、作品を載せれば終了です。

そんなわけで、昨日はキャプション類の作成やリストとの照らし合わせをしながら、じっくりと作品を見ていました。写しだされている静物のひとつひとつには、花という生物と無機質なものたちとの融合によって得られる独特の世界観が存在しています。

プリント品質は素晴らしいの一言です。光沢感の中に濃密な色彩を放ち、8×10の描写力を待って精緻に写し取られた姿態は、一種他の生命体のような現実感を帯びて、迫ってきます。何より、黒が黒以外の何物でもないところがすごいなと思わせるところです。

レイアウトを決め、壁に立てかけている作品全体を眺めていると、ふとどこかで見た、感じた風景のような気がしてきました。しばらく考えていたのですが、それは小川洋子さんが書く小説の世界のようだと、僕の中で行き着きました。

小川さんの小説では、映画化された「博士の愛した数式」が最も知られたものだと思いますが、僕は「薬指の標本」や「沈黙博物館」なんかがとても好きです。これらの小説には、常に死やエロスといったイメージがまとわりついているのですが、何故か拒否感無く読んでしまえるところが、小川さんの小説家としての質の高さなのだと思っています。

今回の写真展は、ギャラリーという場所でありながら、何か博物館的な感覚で見てもらえるような気がしています。その時、その時代を内包し、美しく、儚いものの残り香にも似て、今は静かに佇む、そんな趣が全体として感じられるような・・・。

まさにそれが、「移りゆく時間」であるわけです。

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