2011年4月28日木曜日

転機

昨夜テレビで、日本文学研究者のドナルド・キーンさんが日本国籍を取得し、永住する旨のニュースが流れていました。ドナルド・キーンさんと言っても、僕自身著作物を読んだり、講演を聞いたりしたこともなく、名前程度ぐらいしか知りません。


彼は今、88歳、50年に渡りコロンビア大学で教鞭を取られています。彼と日本文学との出会いは、18歳の頃、わずか49セントで手に入れた「源氏物語」だったと言います。それをきっかけに日本研究の道に入り、数々の出版や講演、日本での文化活動を経て、2008年には文化勲章を受けるまでになりました。

そのような人ですから、今回の震災は、日本人以上に心を痛めたのだと思います。業績や年齢的に言っても、母国アメリカからいくらでも後方支援的な活動は出来るのだと思いますが、彼はそれを良しとはしませんでした。

ニュースの中のインタビューでは、今回の震災が自分にとっての転機であると話しています。そしてまた、年齢的にもそれほど大きな活動を出来はしないが、少しでも力になれればとも話していました。

震災からの復旧や復興の為の行動であるとしても、これを自分自身の「転機」として捉えているところに大きな意味があります。日本文化に触れ、それらをこよなく愛し、研究を重ね、今がある自分に対しての使命感のようなものなのかもしれません。

震災では、そういった使命感を持ちながら、自らを犠牲にし、命を失った方々が多くいらっしゃいます。その多くの人々は、いわゆる一般の、そして無名の方々です。しかも、そんなことすら考えるいとまもなく、一瞬の判断で行動した結果と言って良いものです。

現在、あらゆるメディアで復旧や復興といった言葉を見たり聞いたりし、僕自身も展示会を復興支援企画としていますが、実はちょっと違っていないかと感じるところがあります。失われた命が戻ることはないし、全てが元通りになることは難しいだろうし、こうしたことで浮かび上がった問題も数多くあるのだから、それらを打ち破るには多くの試練や覚悟が必要なのかなと思うのです。

そう考えると、彼の言った「転機」は、現在多くの人にすでに芽生えているもので、決して他人ごとではないはずです。そして、それぞれが繋がりながら、湧きあがるようにして再生していくしかないのかもしれません。

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